伝わり守られ続ける技法
こんにちは。”ころは”店主です。
日々の食卓を彩ってくれるうつわたち。様々な形、色、模様や風合いで私たちの目を楽しませてくれますね。
陶芸には古くから伝わる数々の技法があります。
作家さんたちはそれらを受け継ぎ、それぞれ工夫を凝らしたり、新しいアイディアを加えたりして、素敵な作品を生み出されています。
その技法たちが大切に守られているからこそ、いつの時代も変わることなく「道具としての美」が私たちを魅了するのでしょう。
さて、今回はイギリスから伝わる二つの技法、「スリップウェア」と「モカウェア」についてご紹介したいと思います。
日本で花開いた「スリップウェア」
ヨーロッパの伝統的な風土を感じると同時に和の風情も漂う、何やら郷愁を誘う色味や柄が印象的ですね。
写真のような模様を施されたうつわを「スリップウェア」といいます。大まかな説明ですが「土に水を加えたクリーム状の化粧土(スリップ)で装飾して焼き上げた陶器全般」を意味しています。
この技術の起源は新石器時代、紀元前7000年頃まで遡ります。
その後、長い時間を経て世界中の文明に伝わり、17~19世紀頃の英国で技術が発達したと言われています。
ところが産業革命による大量生産品の普及に伴い、細かい手仕事である「スリップウェア」の技術は徐々に衰退し、19世紀後半になると当の英国では忘れられた技術となりました。
それから数十年後の1920年代。
当時の日本では、日用品として使われる焼き物や木工細工、染め物や織物等の手仕事による工芸品に「用の美」を見出す「民藝運動」が動き始めていました。
その頃、バーナード・リーチ氏や柳宗悦氏をはじめとする、民藝運動の創始者たちが一冊の洋書から「スリップウェア」の存在を知り、魅了されました。
いくつかの重なった偶然と彼らの情熱により、「スリップウェア」の技術を確立することに成功しました。
それは民藝運動の流れに乗り、全国の陶芸家まで広がり、今もなお大切に引き継がれる技術となったのです。
当店でも「スリップウェア」のうつわ作りで活躍されている山口和声さんの作品をご覧いただくことができます。
山口さんはかつて、バーナード・リーチ氏から感銘を受け鳥取県で開窯された岩井窯で修業し、研鑽されました。
細かい精密な模様。大胆な模様。やわらかな模様。
やさしい風合い、懐かしさを呼び起こす色合い。うっとりする色つや。
ひとつひとつが表情豊かでどれもが魅力的。
遠い昔に生まれ、遠い国で途絶えた後、
運命のように日本に導かれ、花咲き、今も大切にされている受け継がれているスリップウェア。
うつわを手に取ると作り手さん熱いの思いが伝わってくるようですね。
化学反応と偶然が生み出す美「モカウェア」
墨流しのような、滲んだ色合いが美しいこのうつわたちを、「モカウェア」と言います。
この模様の秘密は酸性の液体で作ったモカティー。
泥の状態の素地(うつわ本体)にモカティーを垂らすと、化学反応で滲む色が表面を這うように広がり、鮮やかな模様として浮き出るのだそうです。
この技術は19世紀の英国で日用使いのうつわによく使われていたそうです。
「モカウェア」という名称も可愛い響きで気になりますよね。
18世紀の英国で、この技術で作られたうつわの模様が|瑪瑙《めのう》(別名:モカ石)の縞模様が似ているために、「モカウェア」と呼ばれるようになりました。
|瑪瑙《めのう》はアラビアの「モカ」という港から輸入されていた為、モカ石と呼ばれていました。
コーヒーの「モカ」もこの地名から来ているんですね。
何とも意外な名前の由来ですよね。
色々と歴史があるのだなぁ、としみじみ感じます。
当店では片瀬有美子さんの「モカウェア」のうつわをご覧いただけます。
英国生まれのモカウェアは本来は陶器。
片瀬有美子さんはこの技法にオリジナルの工夫を加え、磁器に装飾しています。
磁器そのものの透明感や繊細な質感と、静かに広がる水の動きを思わせる模様が互いの美しさを際立たせているようです。
いかがでしたか。
様々な技法にもそれぞれの長い歴史があり、多くの作家たちの熱い思いが託されていることに改めて気付くと、手に取ったうつわをより愛おしく感じそうですね。
当店ではこの他にも、さまざまなうつわを取り揃えております。是非、覗きにお越しくださいね。